仮縫い、中縫いとテーラーのグレード

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仮縫い、中縫いとテーラーのグレード

アジア9か国(日本含む)のテーラーが神戸に集まり、アジア大会が7月27日(日)から開催されるが、その最終日の国際ファッションショーのモデル仮縫いが大阪で行われ、日本でも指折りのテーラーが集まった。ショーではプロのモデルに、テーラーが独自の感性と最高の仕立てを駆使することで、仕立ての腕をアピールするというものである。

そこで、テーラーの「仮縫い」について述べよう。一般に、テーラーで洋服を仕立てると言えば、仮縫いを思い浮かべる人が多いはず。お客は自分が要望した洋服のイメージを確かめたい。同時に、体に合っているかどうかもチェックしたい。それが仮縫いである。一方、テーラーはどうか。やはりお客と同じく、自分の技術がお客の思っている洋服を形にできているかどうか、今一度確かめる作業である。その技術が、テーラーのレベルの高さを示すものである。ここまでは、ありきたりの内容で、一般の情報誌を通して知ることができる。少し突っ込んで話そう。ただし、ハンドメード仕立てとファクトリーオーダーメード(工場縫製またはイージーオーダー)とは別だと考えてほしい。その理由についてはここでは触れないことにする。

仮縫いには、中仮縫い(中縫い)を付けて、2回行うケースが少なくない。初めてのお客に多いと考えてよい。
■1回目の仮縫いは、採寸、型紙起こし、裁断がいかに正確にできているかを知る手段である。テーラーが着せ付ける。お客は自分のイメージ通りの洋服になっているかどうかを確認する。お客はここで初めてテーラーの技術を判断する。ちょっと違うな、自分が求める洋服ではないな、そう感じる時もある。素晴らしいと感激することもある。しかし、多くは微妙に違っていることが少なくない。一番に確認するのは、上着を着用したとき、肩から首回り、腕の動きなどに、違和感がないかどうかである。特に、腕の動きがスムーズであるかどうかがポイントの一つである。腕を上げたとき、洋服が一緒に上がってくるのはよくない。体にピッタリ合っていて、窮屈感を感じても、腕がスムーズに動けば、これほど楽な洋服はない。極端に言えば、Tシャツを着ている感覚である。着ていることを忘れるほどの着心地である。よくない洋服は「カマ」(アームホール)が大きく、つまりムダな空間があるときに起こる。次に、丈を確認する。パンツは履き心地、シルエットが気になる。スタイルを格好良く見せるのは、パンツにかかっている。股上寸法、裾巾、尻周り、前のゆとりなど。上着は仕事中、脱いでいるケースが多いが、パンツはそういうわけにはいかないので、しっかりチェックしておくべきだ。
■2回目の仮縫いとは、中縫い着せ付けである。1回目は肩パッドの厚みなどで、左右のバランスを見た。2回目はその再確認となる。調整した分、最初の着用感と多少違ってくる。ここでも最終補正がある。肩の部分、首回りである。より正確な体型把把握になる。なで肩、怒り肩、猫背、鳩胸、反身など、みんな体型に特徴がある。それを肩パッドの厚み、使い方で調整した。ダキ(腕の後ろ)しわ、ツキ(上衿)しわなど、ピン打ちで細かい点を確認し、より完璧な洋服を目指す。これが2回目の着せつけである。
■いくら優秀なテーラーであっても、初めてのお客に100%の満足度できる洋服を完成させることはできないと思っていいだろう。洋服を仕立てることが、いかに難しいかということである。このことは、既製服、あるいはファクトリーオーダーしか着たことのない人にはわからないだろう。注文洋服とは、もっとよくできている、つまり自分だけの洋服になってくる。価格は高い。30万円、40万円の洋服には、たくさんの価値、技術が詰め込まれているのだ。
■最後に、上記の工程で、いかに的確かつスムーズに仕事をこなすかが、テーラーのグレードを知る目安になると考えていいだろう。一流は、ポイントの把握が早く、その手さばきは見事である。つまり、あれこれ、いじくりまわさないし、もたつかない。(下の写真は超一流テーラーの仮縫い

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